お侍様 小劇場 extra

   “仔猫のナイショ そのにぃ” 〜寵猫抄より


あのね、こないだね?
キュウ兄ちゃのトコ、行ったのね?
そいでね? シチはシュマダの傍にいゆと、
ときどき急に“好き好き”のによいがしゅるのって ゆったらね、
とっても甘くて ドキドキしゅる いいによいなのってゆったらね?
こっちのシチもそうなのかなぁって。
嬉しくなっちゃうほど とってもいい匂いだったら、
ウチのシチからもするかもしんないって。
キュウ兄がゆっててね。
あのね? キュウ兄のところのシチも、
優ゃしーし、いいによいも しゅるかぁね?
シュマダに“好き好き”ってなったら、
もっともっと いいによいしゅるかもって。
しょーもって(そう思って?)あのね?
シュマダに ギュッってしてって、お願いしたけど、
そんときは ちょっと残念なのだったのね。


 『…何でだろうね。』
 『みゅう…。』
 『うん、そうなんだ。シチもカンベエも仲良しなのにね。』
 『みゃうに?』
 『え? 毛並みこしこし? 毛づくろい?
  さあどうかなぁ。
  あ、でも雨に濡れちゃって帰って来たときとか、
  雪の中を町から戻って来たときとかは、
  シチもカンベエの着替えのお手伝いしてるよ?』
 『みゅうみゃvv』
 『うんっ。とっても仲良しだよ?』


そうなの、キュウ兄のとこのシュマダとシチも、
時々目と目が合うと、
何ちゅーか、やさしいによいがしゅるの。
それに何にもゆわないでもお話出来ちゃうの。
ちょろんてシチが斜めに見たらば、
シュマダがぶんぶんてお顔振って、
それで“違うの違うの”って ちゅうじるのよ、しゅごいでしょー?




       ◇◇◇


  ……って、何を叱られかかったカンベエ様だったやら。
(苦笑)


そして、こちらのお宅はお宅で、
肝心な仔猫さんとは、
七郎次も勘兵衛も言葉が通じないものだから。
そんな面白い、もとえ、可愛らしい“はてさてなんで?”を、
仔猫たちが追及していようとは、露ほども気がついてはいなくって。
知らぬが仏とまでは言いませんが、
ただ…いくら円満な家庭であれ、
気がつかないまんまの方が平和だってゆ事象もあるってもんで…。

 「こっちは雨だったんだね。」
 「みゅうにぃ。」

カンナ村ではいいお天気だったけれど、
こちらでは遅い咲きようのツツジが雨に打たれていて、
白いのも赤いのも桃色のも、
萌え初めの小さい葉っぱまでもが そりゃあ鮮やかなのを。
当家の小さな仔猫と、そんな彼よりは少し大きい仔猫とが、
並んで窓越しに眺めておれば。

 「ほらほら、そんなところにいては風邪を拾ってしまいますよ?」

キッチンから戻って来た七郎次が、
柔らかな笑顔でおチビさんたちを呼び招く。
少しほど濡れてしまってたお客様をタオルで丁寧に拭って差し上げ、
自分ので悪いのですがと、薄手のカーディガンを貸してくれた七郎次は、
相変わらずに優しくて働き者で。
お茶が入りましたよと、
さあさ いらっしゃいというお声をかける彼の手元には、
炬燵の天板の上、
さっき引っ込んだその隙にと用意したらしい、
朝のおやつも並んでる。
キツネさんの毛並み色にこんがり焼けた、
甘い甘い匂いのそれは、

 「ワッフルっていうんですよ?」
 「わっふる?」

蜂蜜かけましょか、それともバターか練乳か。
ジャムを塗っても美味しいし、
サワークリームもありますよと、
トッピング用にと用意された小皿たちがまたにぎやかで。
知らないものが幾つかあるのへ、
赤い眸を真ん丸にしているキュウゾウくんの傍らでは、

 「にゃあ?」
 「アイスクリームはまだ早いですよ?」

そのくらいは通じるらしく、
小首を傾げた久蔵へ、
やんわりとしたお声を返す七郎次なのが、
いかにも“お母さん”だったのへと、

 「〜〜〜〜〜。///////」
 「? どしました?」

ありゃりゃあと頬を赤くしたキュウゾウくん。
あのね? あのね?
シチの窘め方とそっくりだったの、

 「いけませんて言ってるのに やさしいところがvv」
 「ああ それはね。」

それこそ決めつけで言ってはいけませんが、
きっとそれは、
キュウゾウくんが一度言えばちゃんと守る子だからですよ、と。
それはそれは綺麗な笑顔で、教えてくれた七郎次から、

 “…………あ。///////”

ああそうだ、これってウチのシチと同じ匂いだって。
キュウゾウくんも気がついた。
うなじに軽く結われた金の髪のつややかさも、
キュウゾウくんの知る方のシチロージさんと、
ほとんど同じなほどにそっくりなのは、
神様の悪戯、たまさかの偶然なんだろけれど。
住んでるところがあまりに違い、
ここまでに経て来た何やかやだって、
全くの全然違うのだろに。
貸していただいてるカーディガンから、
何とも落ち着く匂いがしていたのも。
ほっこりと微笑ったその笑顔、
ちょっぴり線が細いのに、
そこから感じられる暖かさ、
ほとんど同じであるのも、あのね?
二人の“七郎次(シチロージ)”が、
どっちも同じほど、優しくって家族想いだからなんだと思うの。
ただ、そう…大きな違いがあるとすれば、

 “ウチのシチは“おにのふくかん”のお顔もするから。”

カンベエと同じく“サムライ”だったシチだからね。
そこのところが きりりと居残り、
とっても頼もしい彼なのであって。
それへ対する、こちら様のほうは、

 「おお、キュウゾウが来ていたか。」
 「…あ。」

書斎でお仕事中だったのか、
縁の細いメガネをかけた普段着姿の勘兵衛が、
お廊下から姿を見せたその途端。
子供らの世話を焼いていた七郎次が、
それでもこっちへの目配りをしてから立ち上がる。

  息抜きでしょうか、お茶淹れますね。
  ああ、頼む。

きびきびした所作で立ってったシチだったけれど、
すぐ傍らを通りしな、
その勘兵衛が“おっ?”というお顔をしたのへ、
え?と気づいたところは、
こちら様もさすがの以心伝心ではあり。

 「何を…くっつけておるのだ?」
 「あ…。////////」

少しだけ上背の勝る勘兵衛が、
七郎次の髪についていたらしい、小さな糸屑に気づいたようで。
どこと教えるより早いと思ったか、
通り過ぎかけていた伴侶殿の腕を、
荒い編み目のカーディガンごと捉えると、
そのままそおと引き寄せて。
自分の手づから触れた、ただそれだけのことだったのに、あのね?

 「えと…。///////」

かすかにうつむいた七郎次から、こきゅと息呑む気配が聞こえ、
勘兵衛の大きな手がお顔へ寄るのへと、
随分とドキドキしている彼なのが伺えて。

 「…みゃうvv」
 「うん、判るvv」

しょうがないなあと呆れられるかも知れないと、
そんな風に凹んでのそれじゃあなくて。
触ってくれるのが恥ずかしいやら、でもでも嬉しいやらという、
甘酸っぱい匂いが柔らかくきこえてくるの。

  それとねあのね? それだけじゃなくってね?

勘兵衛の方もまとう空気に柔らかい温度が増したのが判る。
こっちの勘兵衛が力仕事をしているところは、
キュウゾウくんは、あいにくと見たことがなかったけれど。
それでも頼もしい精悍さは伊達じゃあないの、
日頃もその気配の中に秘されているのを嗅ぎとれて。
でもね、今はね? その上へ優しいベールがかけられていて。
とっても大切な宝物を愛しい恋しいと見守るお顔には、
男らしい雄々しさの上へ、それは幸せそうな温みが増していて。
シチから香る、やさしくて甘い匂いとお揃いなの。

  ―― あれれ、でもでもこの匂いだったら

ウチのシチからも時々するよと、
キュウゾウくんの側が、ようやっと気づいた模様。

 「みゅうにゃ?」
 「うん。ここまで甘酸っぱくはないけども。」

川に落っこちた俺のこと、
案じてくれてたのが ほっと安心出来たときとかね。
珍しく咳をしているシチロージなのを聞いて、
カンベエが飴湯っていうのを作ってあげたの受け取りながら、
ああそういえば、昔も よう作って下さりましたなと、
ちょっぴり恥ずかしそうに ほっこり笑ったときとかに。
ここまで甘くはないけれどでも、
暖かくってホッとする、そんな匂いがシチからもする。

 「みゃう?」
 「うん。本当に時たまに だけどもね。」

シチはサムライだったから、
ううん、今だって、
カンベエが一目置くほどに強いサムライのまんまだからね。
多分それで、
ドキドキや好き好きは奥の方に仕舞ってるんだ、きっとね。

 「みゃんvv」
 「久蔵もそう思うの?」
 「みゃうみぃvv」

ふわふかな金の綿毛をふわりと揺すぶり、
小さな顎をうんうんと引いて見せる弟分の笑顔につられ、

 「うんvv きっとそうなんだよvv」

キュウゾウくんも、
柔らかな毛並みに覆われたお耳をピンと立てたその上、
その白くて幼い拳をぎゅむと握って見せており。

 「?」 (どうしたのでしょうか)
 「???」 (さてな)

何にか納得がいってるらしい仔猫たちの会話、
残念なことには半分しか聞き取れなかったものだから、
こちらの島田さんたちには、訂正や弁明のしようもなかったようで。
五月の雨の鬱陶しささえ温める、
愛らしい和子らのはしゃぎよう、ほのぼのと見守っていたらしいです。




  〜Fine〜  2010.05.07.


  *露原藍羽様のところで、
   それはかあいらしいお話を書いておいでで。
   こちらのイツフタと 向こう様のイツフタ。
   仲良し同士な点は間違いないのですが、
   微妙に“好き”のカラーが異なると、
   気がつきだしたおチビさんたちなようで。
   それは さながら、
   島田家の宗主殿と次男坊のような。
   対外的緊急時には頼もしい味方じゃああるが、
   平素であればあるほど、
   微妙な一線画している ややこしい間柄なのと、
   どこか似ている…と言えば、判りやすいのかも?
(笑)

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